【がん化学療法】悪心のリスク因子について復習!

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当院では、中等度催吐性リスクに分類されるレジメン(おもにオキサリプラチンおよびイリノテカン)に対して、制吐薬としてガイドラインでオプション推奨されている**ホスネツピタント点滴静注液(パロノセトロン製剤)**を前投与として導入しています。自分の印象としては本剤追加による制吐効果が上乗せできているように感じる一方で、患者による吐き気の訴えや制御状況には一定のばらつきが見られます。そこで私は、その有効性や悪心の実態について院内での調査を行い、学会にてポスター発表することとしました。

このような背景から、CINV(chemotherapy-induced nausea and vomiting: 化学療法誘発性悪心・嘔吐)の発現を左右する要因について改めて整理する必要があると感じました。本記事では、最新のガイドラインを参照しながら、CINVのリスク因子についてまとめていきます。

レジメンの催吐リスク

最も重要なリスク因子は、使用される化学療法レジメンそのものです。ガイドラインでは薬剤を「高催吐性」「中等度催吐性」「低催吐性」「最小催吐性」に分類しています。

  • 高催吐性:シスプラチン、大量シクロホスファミド、など
  • 中等度催吐性:カルボプラチン、イリノテカン、オキサリプラチンなど
  • 低催吐性:タキサン系(パクリタキセル、ドセタキセル)、ゲムシタビンなど
  • 最小催吐性:パニツムマブ、ラムシルマブなど

この分類は制吐薬の選択に直結しますが、同じレジメンでも患者によって吐き気の出現頻度が異なる点に留意が必要です。

患者背景に関わるリスク因子

ガイドラインや過去の臨床研究から、以下の患者背景がCINV発現に関連するとされています。

  • 年齢
    若年者ほどCINVのリスクが高いとされます。特に50歳未満の患者では注意が必要です。
  • 性別
    女性は男性に比べてCINVの発現リスクが高いことが示されています。
  • 飲酒習慣
    飲酒歴のある患者、特に日常的に多量飲酒していた患者ではCINVの発現率が低い傾向があります。逆に飲酒習慣が乏しい人はリスクが高いとされます。
  • 妊娠時のつわり歴
    妊娠時に重度のつわりを経験した女性では、CINVのリスクが高まると報告されています。
  • 不安・緊張の強さ
    心理的要因も関与し、不安が強い患者では吐き気の発現が増えるとされています。

治療経過に伴うリスク因子

  • 過去の化学療法でのCINV経験
    以前のコースで制御困難であった患者は、次回以降も再発するリスクが高いです。
  • 予測性嘔吐
    過去の辛い経験により、化学療法の環境や匂いをきっかけに嘔気が誘発される「条件反射的」な反応がみられることがあります。

リスク因子を踏まえた臨床対応

ガイドラインでは原則としてレジメンの催吐リスクに基づいた制吐療法を推奨しています。しかし、同じレジメンでも患者ごとにリスクが異なるため、患者背景を踏まえて調整を考慮することも重要です。

例:

  • 中等度催吐性レジメンでも、若年・女性・非飲酒者などリスクが重なる場合は、制吐薬を強化して対応する。
  • 高催吐性レジメンでも、過去にCINVをほとんど経験しなかった患者では、ステロイド等の過剰投与を避けつつ副作用に注意しながら調整する。(膵癌など血糖上昇リスクの高い患者に対して)

単にプロトコル通りに制吐薬を投与するのではなく、患者ごとのリスク評価を行うことが求められます。

まとめ

がん化学療法に伴う吐き気・嘔吐は、多因子的な要素で発現します。

  • 最大の因子はレジメンの催吐性
  • 次いで、年齢、性別、飲酒歴、妊娠時のつわり歴、不安の強さなどの患者背景
  • 過去のCINV経験や予測性嘔吐もリスクに加わる

これらを踏まえて、ガイドラインを基本としつつ、患者ごとにきめ細やかな対応を行うことがCINV予防の鍵となります。

CINVのコントロールは、単に「吐き気を抑える」ことにとどまらず、患者の治療継続意欲や生活の質に直結します。リスク因子を意識した制吐療法は、がん治療の成否に大きく寄与すると言えるでしょう。

私自身研究発表に向けてこれらの点を意識しながら実態調査に向けての集計をしていきます。

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